Laser Guide Star

人工星(ガイドスター)を用いた望遠鏡の解像度向上

現代の望遠鏡には大気によって引き起こされる波面の歪み、ぼやけた像を補正するために補償光学が採用されています。補償光学の基準として、大気中のナトリウム原子をレーザーで励起した,レーザーガイドスターを使用することができます。TOPTICA社のSodiumStarは、波長589nm, 出力20W、線幅5MHz以下のコンパクトなターンキー型レーザーガイドスターシステムです。

現代天文学

天体観測用の望遠鏡のミラーのサイズはここ数年継続的に大きくなっています。大型の主鏡やマルチテレスコープアレイを備えた望遠鏡は、それぞれ光学的な分解能と収集効率を向上させるために作製されました。実際に、直径8メートル以上のミラーの望遠鏡が数台設置されています。例えば、チリのヨーロッパ南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡(VLT)、またハワイの10mのケック望遠鏡などです。しかし望遠鏡の高解像度は、地球大気の乱れによって妨げられます:異なる屈折率を持つ異なる温度層が小さなレンズとして機能し、天体から放出される波面を歪めてしまうのです。それゆえに、地上に設置された望遠鏡により得られる像は、大気のひずみによりぼやけてしまいます。回折限界像を得るための方法としては、ハッブルやジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のように、大気圏の上空に望遠鏡を設置することです。しかし、現在のロケットで宇宙に運ぶことができる望遠鏡の大きさは、ミラーの重さ、或いは予算の関係で限られています。

補償光学

地上望遠鏡の場合、平面波を発生させるために補償光学と呼ばれる技術を適用することで、回折限界像を得ることができます。この技術は天文学だけでなく、網膜イメージングシステムなどにも応用されています。入射波面(星より放出され、大気によって歪められた)は、変形可能なミラーで反射され、その後、波面センサ(例えば、シャックハルトマンセンサ)によって分析されます。この波面センサは、リアルタイムで平坦な波面を得るために、変形可能なミラーの曲率に適応するよう、連続的にフィードバック信号を提供します(最大1000 Hzレート)。この方法により、点粒子の物体は得られる画像でもほぼ点状になり、回折限界像が得られます。

ガイド星(Guide stars) ガイドスター

この補償光学の手法には、望遠鏡の科学的視野内或いはすぐ外側に点状の参照光が必要です。この目的のために、点のように見える外観の十分に明るい星が採用されています - いわゆる "自然ガイドスター"(NGS)。望遠鏡の光学系は、これらのNGSが画像内で点状に表れるように継続的に適応されています。このようにして、隣接するオブジェクトの波面の歪みが補正されます。残念ながら、NGSとして認定される星は非常に稀であり、空の小さなセグメントだけでは、このアプローチには限界があります。この問題を解決するには、レーザーを用いた技術(「レーザーガイドスター」、LGS)を用いて、夜空に人工的な点状の物体を作り出すことです。LGSの実現方法の1つは、地球表面から90~110km上空の中層圏に存在するナトリウム原子を励起することです。この層は均一に分布しており、比較的安定しており、さらに乱流大気よりも十分に高い位置にあるため、放出された蛍光光は、対象物によって放出された光と同じ歪みで大気中で受けることになります。

これまでナトリウムレーザーガイドスターは、色素レーザーや固体レーザーの和周波混合を用いて実現されてきましたが、いずれの方法も光出力に限界があり、メンテナンスが非常に厳しいという問題がありました。中層大気中のナトリウム原子を励起するためには、ナトリウム原子と共鳴するための非常に高出力のレーザーが必要です。ナトリウムの超微細構造を一致させるために、589 nmで5 MHz未満の線幅と微調整可能なCWレーザーが必須となります。光源の出力は望遠鏡で蛍光光子の十分なフラックスを作成するため少なくとも20 Wのパワーが必要です。

SodiumStar System

トプティカ社のソリューションは、カナダのMPB社と共同で開発した出力20Wのコンパクトで信頼性の高いターンキーレーザーシステム SodiumStarです。このシステムは、シードレーザーとして採用した1178nmの狭線幅ダイオードレーザー(DL DFB)、革新的な狭帯域ラマンファイバー増幅器へのアプローチ、589nmへの共振周波数変換、を組み合わせたものです。ラマン増幅は、光ファイバ内でのシードレーザと広帯域ポンプレーザの間の非線形相互作用に基づいています。低周波数の「シード」光子は、高周波数の「ポンプ」光子の非弾性ラマン散乱を誘導し、その結果、シードレーザの周波数で別の光子を発生させ、過剰なエネルギーを媒体に伝達するフォノンを発生させます。ここ数年で、シードレーザーの線幅のみで線幅を制御する高出力狭帯域ラマン増幅を得る技術が ESO(ヨーロッパ南天文台) で開発され、現在はTOPTICA社がライセンスを取得し製品化しています。 SodiumStar は、589nmで 線幅<5MHz, 30GHzの波長可変を特徴としています。遠隔操作が可能で、望遠鏡が設置されている高所での過酷な環境にも耐えられる頑丈な産業用レーザーソリューションです。2014年以降、地上にあるすべての主要な光学/赤外線観測所にSodiumStarレーザーシステムが搭載されています。

このパワースケーラブルなアプローチは、レーザー原子冷却、ナトリウムLIDAR、レーザーイメージプロジェクター、レーザーTV、医療治療、超解像度顕微鏡、その他高出力CW可視光レーザーアプリケーションにもソリューションを提供します。 DLC RFA-SHG pro, はDL 100/ pro設計をベースしたシードレーザを採用し出力2 W、線幅<1 MHz、20 GHzのモードホップフリーチューニングレンジを特徴としています。

Future Applications

ガイドスターレーザは、急速に成長している宇宙観測や光衛星通信の分野でも使用されています。今日ではすでに、トプティカ社のSodiumStarは、低・中・静止軌道上に現存する宇宙船や衛星、宇宙ゴミの、高解像度の宇宙観測をサポートしています。また、帯域幅の需要の増加に伴い、RF通信やマイクロ波通信から、人工衛星との通信や人工衛星間の通信をレーザー通信に移行していくことになります。特に、地球から衛星へのレーザデータ通信、および深宇宙探査機へのレーザ通信のために、レーザガイドスター補償光学は役立つ技術であると考えられています。しかし、これらのアプリケーションを完全にサポートするためには、例えば日中の動作を含めて、出力、小型化、堅牢性などの技術的な課題があります。トプティカ社の当分野での活動は、欧州連合(EU)のSME機器助成金により行っています。